NO.17 ――作家藤本義一先生との出会い――
藤本先生と出会ったのは私が23歳の時だった。大阪工業技術専門学校の建築学科で学んでいた2年生の頃、私は学生自治会の会長という立場で先生に講演をお願いした。身も知らぬ私の依頼を快く受け入れて頂いたにもかかわらず、飛行機以外の鉄道関係はみんな止まってしまうというゼネラルストライキに巻き込まれてしまった。当然、学校は休校になり講演は中止になる。あるいは自然消滅することになる。これに自分なりに責任を感じた。当事、藤本先生は直木賞を受賞された後でもあり、テレビやラジオ、新聞や雑誌等で活躍されていた超多忙なスケジュールをこなされていた。
このストのニュースを新聞で知ったとき、すぐ先生の自宅に電話を入れ、ストで講演が中止になる旨を伝えようしたが、先生は東京赤坂見附のホテルに泊まっておられるということだった。今回中止になると次回どうなるかわからない。講演1週間前である。居ても立ってもおれず、ストの初日だったと思う、気づいたときには夜半クルマを駆って名神を東へ、東京向いて走っていた。
翌朝、ホテルの駐車場から部屋に電話。無茶な私の行動に先生も驚かれていた様子だった。ストで中止になり、日程を代えて貰う事等電話1本で済む話だと思う。目的は藤本先生の講演会を学校で行い、学生たちに何らかの刺激を頂けたらと乗りかかった船。中止にするわけにはいかなかった。テレビの取材で徹夜明けの藤本先生、徹夜で名神・東名を飛ばして来た私。10分だけという出会いが2時間を超えてしまった。赤坂見附にあるホテルニューオータニのラウンジで待ち合わせ。小柄な先生だったが凄い迫力を感じた。初対面で人からこれだけの迫力を受けたのは初めてだった。初めて口にするカプチーノをご馳走になりながら、先生からのさまざまな人生の話に釘付けになった。これが作家藤本先生と私との出会いだった。