12時間のフライト、アメリカ中西部の中心都市であるシカゴ国際空港オヘアに着いたのは1989年8月2日、たしか正午過ぎだった。シカゴはライトがルイス・サリバンの元で修行し独立した後第1期黄金時代を築き上げた街である。
待合ロビーに友人が迎えに来てくれていた。開口一番「ラッキーだよ」が久しぶりの挨拶。明日からシカゴ産業科学博物館で、なんとライト展が始まるそうだ。ひょっとしたら作品の所在地が分かるかもしれない。翌日そんな甘い期待感を持って、時差ボケながらも昼過ぎに博物館へ。
この展示会は高級衛生陶器のメーカーであるコーラー社がスポンサーになっていて、Tonkens Residennceのリビングとサニタリーが実物大で空間体験できるなど、大掛かりでスケールの大きさと内容に驚いた。まだ、日本でこれだけの規模でのライトの展示会は開催されていない。
入場後、すぐ展示会スタッフにライトの作品を見て廻りたいので、所在地を知りたいと尋ねた。スタッフは自慢げに「あなたはラッキーです。つい最近、全作品の所在地と地図が本になりました」。案内してくれた売り場に本は売り切れていたが、最後の1冊を倉庫から探し出してくれた。手にした時の本の重さと嬉しさは22年経った今でも鮮明に覚えている。住居表示は無かったが、市街地マップにちゃんと作品の所在が黒丸で番地とマークされていた。後は作品の近くまで行き、ガソリンスタンドでシティマップを入手すれば到着できる。
志を立て、動けば必ず何とかなるものだ。その本を手がかりに翌日からの見学日程を組み、ライトの作品たちをレンタカーや飛行機を駆って見て歩くことになる。車での走行は約5000キロの行程だ。これは東京と大阪の往復5回分、しかも一人での運転、今思えばかなり無茶だった。